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執筆者の写真dolceamarotokyo

『解放されたエルサレム』の女性達 2

更新日:2022年10月22日



今日はアルミーダ、オペラなどにも引っ張りだこの、有名な魔女です。


◆◆アルミーダ◆◆


ダマスカスの領主イドラオーテの姪であり、魔術の弟子でもあります。でも、それよりなにより、類稀なる美貌の持ち主です、タッソ自身が、世界一美しい女性、とどこかで言ってた、と思います。たしか。





◆第4, 5歌◆


イドラオーテの命で十字軍の陣幕に現れたアルミーダは、ゴッフレードの前でツラツラと嘘をつきます。曰く、ダマスカスの女王だったが、王位を奪われてしまった、と。「王国の奪還に、10人だけ兵士を貸してほしいのです。」と、ホロホロと泣きながら訴える美女。


ゴッフレードは賢人ですから、そんな事にはなびきません。でも周りの騎士たちはもうメロメロです。罠の可能性も考慮しつつ、ゴッフレードは10人ならと、騎士を連れて行く許可を出します。


ですが闇夜に紛れて、1人、そしてまた1人と、十字軍の騎士たちはアルミーダの後を追います。朝になってみるといなくなったのは50人。その50人は、そのまま虜囚となってしまいます。


この後のエピソードで、この囚われた人たちの居る所へ、クロリンダ(の変装をしたエルミニア)を追いかけあらぬ所へ走っていったタンクレーディが迷い込みます。

そこでアルミーダの魔法と美貌に深く犯された兵士の1人と戦い、やむなくその兵士を倒すのですが、まだタンクレーディと残り49人はそこから抜け出せません。抜け出すには、そこへやってくるリナルドを待たなければなりません。


◆第9歌◆

イスラム軍の作戦により、前後から挟撃されて、あわや大敗の危機に陥った十字軍。がその時、別の方向から十字軍の軍勢50人が現れて、危機を脱します。

ここで出てきた50人が、先ほどアルミーダに捕らえられていた、タンクレーディ率いる50人でした。彼らはリナルド1人に助けられたのでした。


リナルドは第5歌でのアルミーダ出現の後、十字軍の仲間ジェルナンドと口論になり決闘の末殺害してしまい、戦線から追放されてしまっていたのですが、本軍の及び知らぬ所で活躍していたのでした。


◆第14歌◆

ですが、その後もリナルドは帰ってきません。第8歌でのズヴェーノの死の段では、彼の剣はリナルドに託せ、とお告げがあるのですが、そのリナルドは追放されたまま、戦線には復帰していないのです。

ゴッフレードは夢のお告げに従い、やはりリナルドは必要だ、と、捜索を決めます。戦線を崩壊させない為、あまり人員を割く事もできませんが、カルロとウバルドという2人がリナルド救出に派遣されます。


カルロとウバルドの2人はその救出への冒険の最中に出会った賢者から、リナルドが今どうなっているのか、どこにいるのかという話を聞きます。



リナルドに虜囚を解放されてしまったアルミーダは激しく怒り、リナルドへ復讐すべく策を廻らせたのでした。リナルドはまんまと術に嵌って、眠りについてしまうのです。


命を奪うべく近づいたアルミーダは、その顔を見るなり、狼狽えて立ち竦みます、、、と思ったらなんと!傍に座り込んでは、顔を覗き込みます。そして何とあろう事か、リナルドの額に浮く汗を優しく拭ってあげるのです。


一目惚れです。そしてアルミーダは、敵方の騎士に恋してしまった恥ずかしさからか、ただ2人で居たいだけか、戦線には戻らずに、リナルドを花輪の鎖で拘束して、空飛ぶ馬車で拉致して、小さな孤島にある自分の花園へ連れていって虜にしてしまいます。




◆第16歌◆ 15歌ではカルロとウバルドの2人が、リナルド救出の為にアルミーダの隠れ家へと向かいます。そして2人はついにリナルドを見つけるのですが、その時のリナルドの姿ときたら…。

アルミーダの隠れ家で、アルミーダは草むらに寝そべっているのですが、なんとリナルドはそのアルミーダのお腹を枕に寝転んで居ます。


リナルドは鏡を持っているのですが、リナルドはその鏡を見ず、アルミーダの瞳を見ています。その鏡を見ているのはアルミーダ。沢山の絵画になっている、有名なシーンです。

どの絵も、カルロとウバルドが隠れて見ているのが面白いです。リナルドは魔法にかかってメロメロです。。。


二人のラブシーンがしばし続いた後、アルミーダはここでも自分の仕事があるらしく、リナルドに口づけを残して仕事に戻ります。

今がチャンスだ!!カルロとウバルドが飛び出し、すかさず賢者にもらっていたダイヤモンド製の盾をリナルドに向けます。鏡のようなその盾に映った自分を見るリナルド。自分が纏うのは鎧でも兜でもない、なんだこのヒラヒラした服は!?顔を真っ赤にして恥ずかしがるリナルド。こうして魔法は解かれ、3人はそそくさと逃げ出します。


リナルドの逃亡に気がついたアルミーダは、もう半狂乱で泣き叫びながら追いかけます。リナルドは魔法でアルミーダに恋させられてましたが、アルミーダは本心からリナルドに惚れてしまったのです。フォルトゥーナ(幸運の女神)の船に乗る直前、リナルドは立ち止まり、アルミーダを待ちます。ようやく追いつくアルミーダ。


「私も連れていって、でなければ殺して、あなたの奴隷にだってなる、馬の世話だってするわ、ねぇ、お願いだから…」。


ですがリナルドは、既に理性を取り戻しています。

「あなたを憎みもしないし、復讐もしない。間違いだったのです。お元気で、安らかに。私は行きます、あなたはあの船には乗れません」。


行ってしまうリナルド。アルミーダは耐えられません。


「ひどい人!行ってしまえ!きっと後悔するわ、私は復讐の女神となる、戦場で血に塗れて罪を償うがいいわ、そこで倒れて、今際の際にこのアルミーダの名を何度も呼ぶことになるんだわ、それを聞いてやるわ…」言い終わる前にアルミーダは気絶してしまいます。


遠くから丁寧な挨拶を送るリナルド、でもアルミーダは倒れていて見えません。気付いた時には静寂、波の音だけが聞こえて、岸辺にはただ自分1人。未だリナルドへの思いを自覚しながらも、復讐を誓います。声高に「あいつを殺した者には私そのものを与えるわ!」と叫び、その強大な魔法で三百もの堕天使を呼び出し、もう見たくもない自らの住まいを跡形もなく消滅させて、馬車で天空へと飛び立ちます。


◆第20歌◆ 最後の決戦に到着したエジブト軍に紛れて、アルミーダの姿があります。エジプト軍の面々を誑かして、リナルドの首を狙わせるのですが、この最後の決戦でのリナルドはもう最強です。立ちはだかる敵を皆、一刀両断で倒していきます。

アルミーダの戦士は全滅、アルミーダは逃げ出し、矢を手にして自死しようとしますが、その寸前にリナルドに止められます。


気を失うアルミーダ、それを抱きとめ、憐れみの涙を流すリナルド、その涙で、アルミーダは我に返る。


「去る時にも戻る時にも酷い人、どんな罰の為に私を生かしておくの?

凱旋車の前に晒すのかしら?今更優しくなんてしないで!」


「心を鎮めて下さい、敵としてではなく、庇護者としてあなたを生かすのです、あなたの王国のために。あぁ、天の光が、異教の迷妄の霧を晴らしてくれますよう!」


そしてアルミーダは怒りを鎮め、福音書を引用しつつリナルドの意志に身を委ねます。ここでは、明確にアルミーダがキリスト教に改宗した、とは書かれませんが、アルミーダの発する言葉がそれを示唆しています。




余談になりますが、この20歌のアルミーダとリナルドの場面は、本来、シピオーネ・ゴンザーガ達との校正を重ねる中でタッソが削除したはずの箇所、と言われています。


実際、81年パルマ版やカザルマッジョーレ版では、現在通常見る20歌の120連の次は突然137まで飛んでおり、121〜136は削除されています。


←1581年Parma版。Tosto Rinaldo si dirizza, et erge: は120連ですが、そこに続いている次の連 (Ma) In questo mezzo il Capitan d'Egittoは、本来137連です。


『解放されたエルサレム』は、その出版の前から相当な数の手写が出回っていて、タッソが聖アンナ病院に投獄されていた間に勝手に出版された経緯から、タッソの意図を反映した完全版はこれまで存在せず、タッソ自身の手稿も見つかっていないので、最初のオリジナル、というものもありません。

そして今一般的に出回っている『解放されたエルサレム』の本は、基本的にはフェッラーラ版を底本にしています。フェッラーラ版はどこからか別の手稿に残っていたこの部分の詩をつっくけて出版されているのです。



とはいえ、この20歌の削られたシーンのマドリガーレも存在するので、削られてしまっていたらその辺りの曲も全部存在しなかったでしょうし、現代に生きる私達音楽家にとっては、良かったかもしれませんね。



余談の余談ですが、タッソが投獄されていた聖アンナ病院、現在の同名の病院はかなり郊外の離れた場所にありますが、本来の場所はエステ城の目と鼻の先です。


表通りの壁にはプレートが貼ってあり、ここにタッソが数年幽閉されていた、と書き残されています。


現在では、日本でも革製品で割と有名なフェリージFelisiのお店のある裏側で、小さな広場になっています。

昔フェッラーラに行った時にFelisiのお店に入って財布を見せたり(当時は古いFelisiの財布を使ってたので)おばちゃん達と色々話した後、タッソの捕まってた牢屋がこの辺って聞いたんだけど〜、と聞いたら「この裏よ!」と裏口から出してくれた思い出のある場所です。笑


その裏口から出ると、ちょうど小さな広場の所に出るのです。角を曲がれば普通に行ける広場でしたが、僕が行った時には、素敵だけどちょっと寂れた感じの広場、という感じでした。教えてもらってようやく、タッソの胸像に気づくくらい。

その広場には、今もタッソの胸像があるようなのですが、この胸像の所に、通りに面した形でちょうど今年の2月「タッソの独房」と書かれたプレートが付けられたようです。

タイムリーですね。


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